7クラスも取って死にそうになっていた割には、12月の段階でまだ大学を卒業していません。『それはなぜ???』 それは就労ビザの申請に予想以上の時間がかかり、卒業を延ばさないと不法滞在になってしまうからなのでした。仕方なく、と言うか半分お楽しみでデッサンのクラスを受講する為に、週一回、オハイオから2時間かけて学校に通っておりました。
そんな「空白の夏休み」から半年以上経った1997年の2月中頃、彼であるAから電話があります。「ニューメキシコに遊びに来ない?」彼はその当時 Hawk Watch International(略してHW)という猛禽類(ワシやタカの仲間)の渡りや生態の研究・保護をするNPOに所属しており、その時はニューメキシコのアルバカーキ郊外で渡り調査員をしていたのです。とにかく何ヶ月も会っていない上に、彼が何の仕事をしているかも殆ど知らないワタシ。二つ返事でOKしました。 学校も先生と話を着け、クラスを休む了承を得たワタシ。安いチケットを入手して2週間の予定で一路ニューメキシコへ。 2月の寒いオハイオから、アメリカ中西部のニューメキシコに飛ぶと言う事は、気候もかなり違いかなり温かいと言う事。ムンッとしたハワイのような暑さを期待していたワタシの予想に反し、アルバカーキはカラッと乾いた心地よい暑さでした。ずっと会っていないAの顔を見るのに少し緊張していたワタシ。(カワイィ〜…って自分で言うかぁ?) 友人のBの車を借りて迎えにきたAは何だかショートヘアの少し逞しくなった男の子でした。その日はとりあえずBの家へ直行し、食事とお喋りをした後HWの調査員が寝ているキャンプ・サイトへ。ははは、初日からテントです…かと思いきや、初日から外で寝かされました(笑)。キャンプ・サイトから5分位歩いた所に有る砂場の上です。標高が高いのと廻りに明かりが全く無いのとで、満天の星空がとても綺麗な第一日目でした。ちなみにBはとっても優しいゲイのオジサンです。ゲイ・フォビアのAが初めて作ったゲイのお友達で、とても良い人です。 翌日から本当のHW生活が始まります。翌朝結構ノンビリ起き出した我々はとりあえずテントへ戻り歩きやすい服に着替えです。まず私が気が付いたのは、キャンプ・サイトと言うのは本当は私有地だったと言うこと。HWの調査現場は州の管理する公園の中に有り、そのすぐ外側に住んでいる人の土地にテントとトレーラーを置かせてもらっているんですねぇ。ちなみにトイレとシャワーもそのお宅のものを使用させてもらっているのです。 着替えを済ませたワタシを待っていたのは、一時間の急勾配登り…今でこそ山登りをライフワークとする私ですが、その頃はハッキリ言って登るのも走るのも嫌い(笑)。「あそこまで登るんだよ」と言うAに「ふぅん、大した事無いジャン」等と軽口を叩いたワタシは、ゼェゼェハァハァ言いながら何とか他のメンバーの待つ観測地点に辿り着いたのでした。 観測メンバーはAの他に唯一地元出身のSと、訪問者のガイドも兼ねているAさん。トラップ・メンバーは小学生の頃からこのプロジェクトに加わっているJと、小柄なG、それに途中からメンバーに加わったTです。 観測メンバーの仕事は、文字通りワシ・タカの観測。と言っても見てるだけでは有りません。観測は毎日朝8時に開始し、夕方5時に終わります。1時間毎に気温・風向き等を記録するのも基本的な仕事。そしてメインはバード・カウントです。観測地点は南側が見渡せる場所に位置し、観測員は原則として南の方から渡って来るワシ・タカの種類を見極めカウントするのです。どうして『南』なのかと言うと、このアルバカーキ郊外のサンディア観測地は春に南から北へ戻ってくる鳥達の通り道だからで、秋に南へ降りて行く通り道はまた別にあるそうです。 トラップ・メンバーの仕事はズバリ、ワシ・タカを捕獲する事。と言っても捕まえて如何こうするのではなく、捕まえた鳥には鑑識リングを着け、体重・身長・嘴の長さなどを測って記録するだけです。観測メンバーが双眼鏡で発見した鳥がトラップ・メンバーの隠れているブラインドの方へ目掛けて飛んで行くと、観測メンバーはトランシーバーでトラップ・メンバーに連絡します。ブラインドの近くにはタカ類の嫌いなプラスチックで出来たフクロウがいくつか立っているのです。連絡を受けたトラップ・メンバーは囮であるベストを着せて紐をつないだハトやスズメをいかにも怪我をしているかのように飛ばし、罠におびき寄せた所で魔法の様に上手に鳥を捕獲します。観測メンバーの鳥の見極めテクニックもさる事ながら、トラップ・メンバーの技には驚かされます。特にJ。 訪問者はほぼ毎日観測サイトを訪れ、週に2度ほどはスクールバスに乗った小学生やボーイスカウトの団体訪問もあります。そこで活躍するのがガイドのAさん。彼女の仕事はHWの役割説明と、鳥についての説明などです。このような訪問者が居る時にはただ頭上を飛び去ってしまう鳥たちだけでなく、トラップ・メンバーが捕獲した鳥達が大活躍します。捕獲された鳥は、暴れて怪我をしない様に蓋と底の両方をくり抜いた缶に入れられてトラップ・ブラインドから10分ほどかけて運ばれてきます。そこで缶から出された鳥は説明者に両足をしっかり握られ訪問者の前で彼らの素晴らしい姿を披露し、説明が終わった後にその場から空へと飛び立ちます。 さて、私の滞在も1週間を過ぎた辺りのA君の誕生日、事件は起こります。「事件」と言っても「良い事件」ですけどね。余りの鳥の少なさに退屈してきた各メンバー、トランシーバーで遊び始めます。事の始まりはJよりAへの一言。「誕生日にどの鳥を捕まえて欲しい?」これに対するAの答えは「紅い目のオオタカ」でした。そんな事も忘れて観測を続けて十数分後、ブラインドから叫び声が上がり、トランシーバーからはJが「お望みの品を捕らえましたのでブラインドまで起こし下さい」との事。しかぁ〜し、「その手に乗るか」と疑ってかかったAは一向に動く気配は無し。暫くしてJが大き目の缶を小脇に抱えて坂を駆け下りてくるではありませんか。最後の最後まで「絶対ウソだよ」と言っていたAの目の前にJが持ってきたのは正真証明の『紅い目のオオタカ』だったのです!! 何と言う奇跡!! ほんっと、誰も最初は信じませんでしたもの。缶から恐る恐る自分のバースディ・バードを取り出したAは満面の笑みでオオタカを手に持ち、私のカメラにポーズするのでした。そして数分後。「はい、カメラ置いて」といわれたワタシ。緊張するかと思いきや、結構落ち着いて『紅い目のオオタカ』この手に持ち、カメラにポーズなどをして数分後には彼をニューメキシコの大空へと羽ばたかせていたのでした。 ちなみにHWの観測サイトはニューメキシコ州の2ヶ所だけではなく、本拠地のユタ州はソルトレイクシティ郊外を始め、アメリカ西部地域に沢山あります。グランドキャニオンもその一つ。秋(8月末〜12月頃)にグランドキャニオンにお出かけの方は一度顔を出してみては? この2週間の滞在の間、観測に行かずに外へ出たのはたったの2日間。一日はアルバカーキ市内を観光し、もう一日はBさんも含め、ターコイズ・ルートと言う道を辿りサンタ・フェに行った日です。そしてシャワーを浴びたのはオハイオに帰る前の日を含めて計2回。ほんっと『街に居なくてもシャワーを浴びなくても楽しくて全然平気』と言う感覚は、絶対にこの時得たものでしょうねぇ。 鳥に関する事意外は結構普通の若者であったHWのメンバーと素晴らしいUNUSUALな経験をしたワタシ、2週間経ち再び街に戻らなければ行けない日が来ました。「はぁ〜、ずっとここに居られれば良いのに」と何度思った事でしょう。しかしそうは行かないのが人生。標高の高いニューメキシコの山で2週間太陽の元で生活したワタシは、見事『ジャパカン』となってオハイオに戻ったのでした。ちなみにジャパカンとは「ジャパニーズとメキシカンの合いの子」と言うDとSコンビの作った言葉です。それだけメキシコ人の様に日焼けしていたと言うことね(笑)。 |