レトロスペクト・アメリカ


Vol. 12 AIPってどんな所?」 の巻


AIPと言う学校は、1950年代後半にピッツバーグで設立されたアートの学校で、現在米国全土に十数校あるアート・インスティテュート・インターナショナルの本拠地でもあります。母Sの姉Tもそのビジュアル・アート科に入っていたそうで、その頃のAIPは何と言っても70's、ヒッピー/ドラッグ/アルコール/フリーセックスの全盛期。学校の中ではヌードモデルが闊歩し、教室や階段ではタバコともマリワナともつかない煙が一日中モクモクと上がっていたそうです。

AIPに通い出すまでの私は、結構ウブで真面目な人間だったんですよね。自分で言うのも何ですが。この学校へ通いだして、いわゆる『普通でナイ人々』との付き合いを始めてからの私は、ドンドン強くなって行くのでした。

1学期が始まった頃、私は相も変わらず辞書を片手に授業を受けておりました。この学校は4学期あってその内の何時でも始める事が出来るとは言え、やはりメインは9月からのコースで、私の始めた3月コースは何と全員で8人しかいないのでした。そう言う小人数のクラスと言うのは、本当に先生の目が行き届きます。と言う訳で、専門用語が飛び交い英語も時々分からない中、先生やクラスメートの助けにより、私の学校生活は結構楽しいモノになって行ったのでした。

私の通い出した当初、AIPにはビジュアル・アート科、インテリアデザイン科、写真科、ミュージック・ビデオ科、ファッションマーケティング科、工業デザイン科と、8つの科がありました。現在はDTPやコンピューター・アニメーション等のコースもあります。この中でも写真とインテリアは特に小さなデパートメントで、人数も最低レベルのモノでした。しかし、AIPの写真科はアート・インスティテュートの中で初めて出来たものであり由緒あるものなのだ。科を設立した先生がまだ教えていたと言う所がまたスゴイ。その先生は未だ健在です。と言っても、まだ今年58歳だから、そんなに年な訳では無いのですが。今ではすっかり私の飲み友達です(笑)。

クラスは朝7時半から始まります。写真科自体は朝の7時から夜の7時まで暗室を開放しており、私達のクラスは7時半から4時半の間で、学期毎に決められたコースを取るようになっています。始めの2学期は白黒の基本をシッカリと叩き込まれます。1学期は35mmの自分のカメラを使って写真の基本を習います。露出やフォーカスの取り方、フィルムの現像から焼き付けまで。そして写真の歴史、心理学やコンピューターのクラスもあるのです。2学期に入ると、4x5の蛇腹のついたView Cameraの使い方を習います。4x5と言うのは、4インチx5インチのシートフィルムの事です。これは写真をやった事がある人なら判るのでしょうが、スリーブと言う撮影用フィルムケースに2枚づつしか入らない代物で、一枚毎の値段もかなりのモノなのです。スライド撮影の仕方もここで習います。そして3学期に入るとカラー写真の焼き付けを始めます。View Cameraも白黒フィルムで撮影していた物を、スライドフィルムで撮影するようになります。4学期からは専門的と言うか、クラス毎にテーマが決められて来ます。広告、報道、肖像、スポーツ、ファッション、コンピューター・グラフィックス等々。専門分野を一通り経験してから、自分の得意分野を定め、それを基本の暗室作業などと並行しながら追究して行くのです。

全部で8学期、まる2年間のクラスですが、この2年間で私が習得した事柄は数限りありません。AIP卒業後、ポイント・パーク・カレッジ、スタジオに就職、そして現在に至るまで、ここで習った事柄は、私の中に技術として、そしてセンスとして残っているもので、一生無くならない物なんですね。いわゆるクラフトマンシップと言うやつです...などとカッコ良い事は置いておいて、学校の話に戻りましょう。

AIPの先生と言うのは、全体的に変わった人が多かったのですが、写真科の先生は特にヘンな人が多かった様です。生徒と一緒になって飲みに行っちゃったり(しかも昼間からである。ランチに酒を飲むのはコイツら位でしょう)、キャンプや旅行にも行っちゃう。大体が60's、70'sに青春を過ごして来た人々なので、当初の私から見れば全員『クレージー』な人達でした。でもね、やっぱり腕はスゴイ。知識もいっぱいで、求めれば「ドンドン吸収しなさい」って感じで放出してくれるのです。

写真科は他の科と違って人数が少ないだけに団結力も強いらしく、フィールドトリップと名打ってラフティングやカヌーイングなど、「ただの遊びじゃないかっ!」と言うイベントもイッパイありました。あの頃は良かったなぁ。最近のAIPは授業料の上昇もさる事ながら、『普通の大学化』を図っているようで、だんだんツマラナイありふれた学校になりつつあるようです。

それでは、次回は高校編に引き続き、『ヘンな授業』の話でもしましょうか。



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